研究科長・学部長からの
メッセージ
経済という言葉は、中国の古典における「経世済民」―世を経(おさ)め、民を済(すく)う―との記述に由来すると言われています。経済という言葉の本来の意味を考えると、経済学を学ぶことは、我々の暮らす社会をよりよくし、社会に暮らす人々の幸福を達成することであるとわかります。経世済民の精神こそが、本研究科・学部のパーパス(存在意義)ということになります。2019年以来の新型コロナ禍だけでなく、2011年の東日本大震災や世界各地の紛争・戦争といった予測不可能な変化が頻発する現代にあって、経世済民の精神を持ちながら経済学を学ぶ必要性はますます高まっています。たとえば新型コロナの感染症対策においても経済学者の知見が活用され、経済活動の抑制と経済的ダメージの関係が分析され、その後の対策の指針となったことや少子化対策としての待機児童の解消やゴミや放置自転車問題の解決といった身近な社会課題の解決にも経済学は有益なデータやエビデンスを提供しています。さらにはスポーツやエンターテイメントにも経済学の応用可能性は広がっています。
本研究科・学部は設立以来一貫して世界最先端・最新の研究を行うことで、我が国の経済学研究をリードする存在であったと自負しています。設立当初主流であったマルクス経済学の限界に早くから気づき、当時最先端であった近代経済学をいち早く取り入れた歴史を持つだけでなく、近年では人の非合理性に注目した経済学の新しい潮流である行動経済学の研究をはじめ、常に新しい領域の研究に積極的に挑戦しています。また、経済学にとどまらず、経営科学やマーケティング、経営戦略といった経営学分野や経済史・経営史といった歴史的視点から経済・経営を捉える分野の教員も多数有しています。仕掛学のように本研究科・学部にしか存在しないユニークな学問を提供しています。こうした最先端で多様な経済学関連の知見は、世界トップレベルの学術雑誌に研究論文として公表されるだけでなく、英語や日本語による著書の出版という形でも社会に還元され、日経・経済図書文化賞をはじめとした様々な賞を受賞しています。このように、本研究科・学部の最大の特徴・強みは、経済学の新しい潮流に積極的に挑戦し、最先端の研究成果を希求すること、経営学や歴史分野といった多様な学問体系を合わせ持つことにあると考えています。
社会的に重要なパーパスを持つ経済学を学ぶために、経済学部では体系的なカリキュラムと充実した少人数教育の体制を整えています。学科は経済・経営学科のみで、経済学と経営学の区別にとらわれない学習が可能です。1・2年生時には全学教育推進機構が提供する科目を中心に豊かな教養と国際性を身につけるとともに、経済学の入門や基礎をしっかりと学びます。3年生からは専門知識を深め、特に研究セミナー(ゼミ)に所属して自分の関心のある領域を、担当教員やゼミ生同士の対話と交流を通じて探究します。グローバルな視点が養えるよう、外国人留学生との交流の場や交換留学制度なども整備しています。卒業後、学生の多くは民間企業や官公庁、非営利団体などに就職しますが、大学院に進学する人も増えています。
大学院経済学研究科は、経済学専攻と経営学系専攻から構成されます。経済学専攻には、経済学コース、応用経済コース、経済制度・事例分析コースの3コース、経営学系専攻には、経営研究コース、ビジネスコースの2コースがあり、それぞれのコースに、欧米のトップクラスの大学に引けをとらない充実したコースワークが用意されています。くわえて、2021年度より英語のみで学位の取得できるコース(Sustainable Economy Program)を新設し、グローバルな教育体制の充実も図っています。修了後は、国際機関、官公庁、シンクタンクなどでの活躍や博士後期課程に進学して研究者を目指すこともできます。博士後期課程では、教員の指導のもとで専門論文を執筆し、その集大成として博士論文の執筆を行います。本研究科出身の研究者の多くが日本の主要大学や海外の大学などで活躍しています。
大阪大学経済学部・研究科は、常に社会的課題の解決にむかって最先端の経済学・経営学の知見を蓄積しつつ前進しています。経済学の社会的課題解決というパーパスに共感する熱意ある学生が一人でも多く、本研究科・学部の門を叩いてくれることを心からお待ちしています。